大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和32年(ナ)1号 判決 1958年2月24日

原告 豊岡壱

被告 鹿児島県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「昭和三一年一〇月五日施行の鹿児島県大島郡喜界町長選挙における原告の当選の効力に関する訴外広司常泰の訴願に対し、被告が同年三二年二月二日附でなした裁決を取り消す。右選挙における原告の当選はこれを有効とする。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、

その請求原因として、

一、昭和三一年一〇月五日に行われた鹿児島県大島郡喜界町長選挙において開票の結果、喜界町選挙管理委員会(以下町委員会と略称する)は選挙会の投票総数は七八九九票、そのうち各候補者の得票数は原告二四一三票、訴外広司常泰二三九九票、同岡村寛義一六四二票、同加納昭一郎一四一一票、無効投票は三四票、原告を当選人と決定するとの報告を受けてこれを告示したところ、訴外広司常泰は同月一三日原告の当選の効力に関し同委員会に異議の申立をなし、同委員会が同年一一月六日附で右申立を棄却するや、更に同月三〇日附を以て被告に訴願を提起し、被告は右訴願に対し同三二年二月二日附を以て町委員会の右異議棄却の決定を取り消し、原告の当選を無効とする(すなわち原告の得票数は点検集計の結果一票増加し計二四一四票(従つて投票総数七九〇〇票)となるが、そのうち三九票は無効投票と認定すべきであり、これを差し引けば原告の有効得票数は二三七五票となるのに対し、訴外広司常泰の得票数二三九九票中無効投票と認定すべき四票を差し引いてもその有効得票数は二三九五票となり、原告のより多数となる)旨の裁決をなし、同日該裁決書はその要旨を告示され、翌三日頃原告及び同訴外人に各交付された。

二、しかし右裁決が無効投票と認定した三九票中以下に記する諸票はいずれも町委員会の認定どおり原告の有効得票と認めるのが相当である。

(1)  原告の得票中に横書の「一〔編注:原文は手書き文字〕」及び縦書の「│││〔編注:原文は手書き文字〕」のような投票が五二七票とほかに最後の判定に付された五九票中一五票計五四二票あるところ、被告は右五二七票中一一票、右一五票中四票(検証調書添付写真―以下検写と略称する―第一乃至第一五)は「│〔編注:原文は手書き文字〕」と記載してあつて単なる記号、符号を記載したものに過ぎず、到底文字とは認め難いとして無効と認定しているが、それは原告の名「壱」に通ずる「一」の字を投票用紙に縦書きしたものと確認することができるので有効とすべきものである。

(2) の如く二線を画した投票一三票(検写第一六乃至第二八)―被告はこのような記載は「一」とは読めないので、公職の候補者の何人を記載したか確認し難いものとして無効と認定しているが、町委員会の認定したように、それは判然と二線を画したものではなく、粗悪な亀裂の多い学童の机上で、しかも文字を書くことに慣れない投票者が原告の名「一」の字を書こうとした結果がかくなつたものであり、無学文盲の選挙人が多い大島の特殊事情に鑑み、できるだけその投票意思を尊重して有効とすべきものである。

(3) なる投票(検写第二九)―被告は○を以て投票に意識的に符号を記載したものとして無効と認定しているが、それは原告の氏名「トヨオカ一」を明確に記載しており、たゞこれを横書きしたため一が原告の名を記したものととられずに、カの長音を示すものと誤読されるのを虞れ、これを避けるために名の一を○で囲んだものと認められるので、通常の他事記載とは類を異にし、寧ろ公職選挙法(以下法と略称する)第六八条第五号但書に掲げた敬称に準ずるものとして有効とすべきである。

(4) なる投票一票(検写第三〇)―被告はかかる記載は末だ以て原告を選ぶ意思が表明されたものとはいえず結局公職の候補者の何人を記載したか確認し難いものとして無効と認定しているが、それは町委員会の認定したように、原告の姓トヨオカの第一文字「ト」を記載したものと認められ、候補者中他に姓の第一文字に「ト」のつく者はいないので、原告に投票した意思が表明されているものとして有効とすべきである。

(5) なる投票一票(検写第三二)―被告はかかる記載は文字とは認め難いとして無効と認定しているが、それは原告の名「一」なる文字を縦書きにした後その下に句読点を付したものと見られるので、これまた有効とすべきである。

(6) なる投票一票(検写第三一)―被告はかかる記載は公職の候補者の何人を記載したか確認し難いものとして無効と認定しているが、それは文字を書き慣れない投票者が原告の名「一」の字を辛じて書いたものとして有効とするのが法の精神に合致するものである。

(7)  「」「」「」なる投票各一票(順次検写第三三、第三七、第三五)、「ヽ」なる投票二票(検写第三四、第三六)―被告はいずれも公職の候補者の何人を記載したか確認し難いものとして無効と認定しているが、このうち「」は原告の名ハジメの第一文字ハを記載したもの、「」は文字を書き慣れない投票者が原告の姓トヨオカの第一文字トを横書きしたもの、「ヽ」は原告の名「一」の字を横書きしそれが短かすぎたものとして、右四票は有効とすべきである。

(8)  「」なる一票(検写第三八)―被告はこのような記載は真面目に候補者たる原告を選ぶ趣旨とは認められず、かつ候補者の氏名でない他事を記載したものとして無効と認定しているが、原告の氏名を記載した趣旨は明白であるから有効とすべきである。

三、更に町委員会も被告もひとしく無効投票と認定した三四票中「」「」なる投票各一票(順次検証調書添付第一図面の第三図第四図―以下検図第三、第四と略称する)は原告に投票したことが確認できるから原告の有効得票に算入しなければならない。

されば、仮に百歩を譲り二の(8)の一票を無効投票と認定しても、その余の諸票を加算すれば、原告の有効得票数が訴外広司常泰の有効得票数二三九五票より多くなることは計数上明白であるから、原告の当選の効力は動かない。よつて町委員会の前記決定は正当で、被告の裁決は違法に帰するので、本訴請求に及んだと述べ、

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

原告の主張事実中、

一は認める。

二の(1)について――法第四七条、第六八条、同法施行規則別記様式第二六によつて明白であるように、現行の選挙法は文字を以て候補者の氏名を書くことを前提としており、文字でない単なる記号、符号を記載した投票は条理上当然に無効投票になると解せられる。それで投票の効力の判定にあたつては、先づその投票の記載が文字であるか否かについて審査し、文字と認められた投票についてのみはじめて法第六七条後段にいう投票者の意思尊重の原則が適用されるのである。被告は「」と記載された五四二票中、文字と認めるに足りる五二七票は原告の名「一」の字を書こうとしたものと認めて原告の有効投票としたのであるが、原告主張のその余の一五票については到底文字とは認め難く、単に記号符号を記載したものと認めざるを得なかつたので無効投票と認定したものであるから、その間毫も矛盾や誤りは存しない。

二の(2)について――他の候補者に対する投票をみても、原告の主張するような事情を推認させるに足りる投票は存在しないので、原告の主張は排斥すべきである。

二の(3)について――○はいかなる意味においても原告の主張するような敬称の類とは解されない。

二のその他について。それらは単に記号、符号を記載したもの若しくはいずれの候補者を記載したか確認し難いものとして無効投票と認定したものであるから、被告の認定に誤りはない。

三について。その二票は町委員会の認定どおり検図第三の一票は単に雑事を記載したもの、検図第四の一票は候補者でない者の氏名を記載したものとして無効投票と認定すべきものである。

されば被告の裁決には全く違法の点はないので、原告の請求は失当として排斥せらるべきであると述べた。

(証拠省略)

理由

昭和三一年一〇月五日に行われた鹿児島県大島郡喜界町長選挙において開票の結果、選挙会が投票総数七八九九票、そのうち各候補者の得票数を原告二四一三票、訴外広司常泰二三九九票、同岡村寛義一六四二票、同加納昭一郎一四一一票、無効投票を三四票と計算して原告を当選人と定め、喜界町選挙管理委員会がその報告を受けてこれを告示したところ、訴外広司常泰が同月一三日右原告の当選の効力に関し同委員会に異議の申立をなし、同委員会が同年一一月六日附で右申立を棄却するや、更に同月三〇日附を以て被告に訴願を提起したこと、被告が右訴願に対し同三二年二月二日附を以て町委員会の右異議棄却の決定を取り消し、原告の当選を無効とする旨の裁決をなし、同日該裁決書の要旨を告示し、翌三日頃原告及び訴願人たる同訴外人にこれを各交付したこと、被告は右裁決の理由において原告の得票数を点検集計した結果一票増加しその得票数は計二四一四票(従つて投票総数七九〇〇票)となるが、そのうち三九票を無効投票と認定し、一方訴外広司常泰の得票数二三九九票中四票を無効投票と認定し、これらの無効投票を各得票より夫々控除すれば訴外広司常泰の有効得票数は二三九五票で原告の有効得票数二三七五票より多数であると判定したこと、及び被告が無効投票と認定した右三九票中に原告の主張する二の(1)乃至(8)の三八票(検写第一乃至第三八)が含まれていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の記載内容に検証の結果を綜合すると残余の一票は「ヒロオカ」と記載された一票(同第三九)であることが認められる。

そこで検証の結果に、成立に争いのない甲第三、第四号証の記載内容証人澄江武、佐東左軍、西俣芳二の各証言及び原告本人尋問の結果を綜合して認められる、原告の喜界町長選挙長に対する立候補の届書、同選挙長の候補者の告示及び選挙用ポスターにいずれも原告の氏名が豊岡一(振仮名はトヨオカハジメ或はとよおかはじめ)と表示されており、原告の選挙運動員も原告に投票するには線を一本引張ればよいと指導していた事実を参酌しつつ、以下順を追つて右三九票ついで原告の主張する三の二票の投票の効力について判断する。

一、原告の主張する二の各投票について、

(一)、二の(1)の一五票―そのうち「<手書き文字省略>」(検写第一。記載個所は投票用紙の候補者氏名欄―以下氏名欄と略称する)、「<手書き文字省略>」(同第二。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第三。氏名欄の左側点線内の余白の部分―以下余白欄と略称する)「<手書き文字省略>」(同第五。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第七。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第八。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第九。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第一〇。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第一一。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第一五。氏名欄)の一〇票は縦に一本の線を、「<手書き文字省略>」(同第四。氏名欄からその右側不動文字で印刷された注意書の部分―以下注意欄と略称する―にかけて)「<手書き文字省略>」(同第六。氏名欄から注意欄にかけて)の二票は横に一本の線を引いており、運筆必ずしも直でなく稍弓なりに彎曲したものがあるにせよ、いずれも一の文字と認めるに支障はないので、以上計一二票は原告に投票する意思を以てその名の「一」の字を記載したものと認めるのが相当である。しかしその余の三票すなわち「<手書き文字省略>」(同第一二。余白欄)、「<手書き文字省略>」(同第一三。氏名欄)及び「<手書き文字省略>」(同第一四。氏名欄)は、一なる文字を書く考で一線を引き、念を入れて更に一回運筆した結果がかくなつたものか、さきに書いた一の字を削除するために一線を書き加えたものか或は単なる符号記号を記したものか投票の記載自体からみていずれとも判別し難いので、右三票は原告の名「一」の字を記載したものと確認することはできない。

(二)、二の(2)の一三票―「<手書き文字省略>」(同第一六。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第二三。氏名欄)「<手書き文字省略>」(同第二四。氏名欄)の三票は縦又は横にほぼ平行する二本の線を、「<手書き文字省略>」(同第一七。氏名欄)「<手書き文字省略>」(同第二六。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第二八。氏名欄)の三票は縦又は横に交又結着する数条の線を、「<手書き文字省略>」(同第一八。余白欄)、「<手書き文字省略>」(同第二二。氏名欄)「<手書き文字省略>」(同第二七。氏名欄)の三票は縦に一本は離れその他は交又結着する数条の線を、「<手書き文字省略>」(同第一九。氏名欄)、「<手書き文字省略>」(同第二〇。余白欄)、「<手書き文字省略>」(同第二一。余白欄)、「<手書き文字省略>」(同第二五。余白欄)の四票は縦に交又或は結着する二本又は三本の線を引いており、いずれも一の字と判読することは困難であるから、これらを以て原告の名「一」の字を記載したものと確認することはできない。原告は無学文盲或は文字を書き慣れない投票者が粗悪な亀裂の多い学童の机上で原告の名「一」の字を書こうとした結果がかくなつたものと主張し、証人澄江武、重信隆慶、佐東左軍、西俣芳二、久保新良の各証言、原告本人尋問の結果及び第一投票所湾小学校、第二投票所荒木小学校、第五投票所坂嶺小学校における各検証の結果を彼是綜合すれば、本選挙の全有権者中に二割前後の無学文盲或は文字を書き慣れない者がおり、また右各投票所の学童の机のうちにかなり粗悪で表面に亀裂凸凹の多いものがさつたことが認められないでもないが、前示各投票の記載がかかる選挙人において右状況のもとになされたことはこれを確認することはできないので、右主張はこれを容れるわけにはいかない。

(三)、二の(3)の一票―「」(同第二九。記載欄に横書)なる記載について、原告はその○は一が原告の名「一」を記載したものととられずにカの長音を示すものと誤読されるのを避けるために書かれたものと認められるので、法第六八条第五号本文に記載すれば無効となると規定された他事ではなく、同号但書の敬称に準ずるものであると主張するが、他事は文字で記載されたものに限らずに字に円圏を施すことも含まれるところ、右○はその位置、形状、筆勢からみて運筆の余勢にかられ不用意に施されたものとは認められないし、既に原告の姓トヨオカを明記した以上他に同姓の候補者のいない本選挙においては、一がカの長音と誤読される虞があるにせよ、これに円圏を施さなくても他の候補者の得票と混同されることはなかつたのであるから、右円圏は結局候補者の氏名のほかに有意に他事を記載したものといわざるを得ない。

(四)、二の(4)一票―「」(同第三〇。氏名欄)を以て原告はその姓トヨオカの第一文字の「ト」を記載したものと主張するが、その線の引き工合は必ずしも稚拙とはいえないので、若し「ト」の字を書く意思ならば二度の運筆を以て足りるのに、右記載には四回運筆の形跡が存し、またその形状からみても到底「ト」の字を書いたものとは確認できない。

(五)、二の(5)の一票―「」(同第三二。氏名欄)につき原告は「│〔編注:原文は手書き文字〕」は原告の名「一」の字を縦書きにしたもので、・はその下に付した単なる句読点であると主張するが、右・はその上に単に縦書きの一線が存するに過ぎないのであるから、通常上下の字句を区分するためその間に、或は字句を書き終えた際その終りに慣習的に施される句読点と同一視することはできず、さりとて線の直下にこれを施したところからみれば誤つて不用意に打たれたものとも認められないし、この票の記載を一体として見れば延びすぎた感嘆符号のようでもあり到底一の字を記載したものとは認められず、これを分けて見れば・は結局原告の名「一」のほかに有意に他事を記載したものといわざるを得ない。

(六)、二の(6)の一票―「」(同第三一。余白欄)を原告は文字に習熟しない投票者が辛じて原告の名「一」の字を書いたものと主張するが、その形状、筆勢殊にその右半分はこれをはね上げた形跡が看取できるので、右記載はさきの拡がりすぎたチエツク記号に類するものとも認められ、これを以て原告の名「一」の字を記載したものとは確認することができない。

(七)、二の(7)の五票―そのうち「」(同第三三。余白欄)なる一票はその形状、運筆の状況からみて、原告の姓トヨオカのヨとオの二字を脱落したものと認めることはできないし、また・が何を表示するか判読できないので、結局右票は候補者中何人を記載したか確認できないことに帰する。次に「」なる一票(同三七。氏名欄)はこれを一体としてみるときは到底原告の主張するように原告の名「ハジメ」の第一文字「ハ」を記載したものとは認められないし、強いてこれを二分し上のの部分を「ハ」の字の稚拙なものとみるにしても下のが何を表示するかは不明に帰し、若しを一の字の縦書きとみるならば、結局本投票は縦横を混同して二字を重複記載したこととなつて真に原告の名を記載したものかどうか確認できなくなり、また若しが句読点の稀長くなつたものとみるならば、さきに(五)において説示したと同様の理由によつて、それは有意の他事記載となるものといわなければならない。またなる一票(同第三五。氏名欄)はこれをいかように見ても原告の主張するように原告の姓「トヨオカ」の第一文字を横書きしたものとは判読できず、寧ろ扁平或は狭長な挿入記号に類していて、到底原告の姓を記載したものとは確認することができない。更に「」「」なる二票(順次同第三四、第三六。共に氏名欄)もその形状、筆勢からみて単なる点としか認められず、これらを以て原告の主張するように原告の名「一」の字を極めて短く横書きしたものとは確認できない。

(八)、二の(8)の一票―「」(同第三八。氏名欄)の漢字の部分は、所謂万葉仮名と称する漢字の仮名にまねて書かれていて原告の氏名として読みとることができ、片仮名の部分は漢字の部分を記載した後その誤読あらんことを慮つてこれに振仮名を施したものと認めることができるし、その間投票者の選挙意思にまじめさを欠き或は投票者の何人であるかを知らしめる等の意図が介在するものと認むべき形跡は存しないので、右は原告に投票する意思を以てその氏名を記載したものと解すべきである。

二、次に「」なる一票(同第三九。氏名欄)は原告の姓「トヨオカ」の「トヨ」を誤つて「ヒロ」と記載したものといわんよりは、寧ろ訴外広司常泰の姓「ヒロシ」の「ヒロ」と原告の姓「トヨオカ」の「オカ」とを混記したものと認むべきであるから、右二候補者のいずれに投票したものか判別確認することができないものといわなければならない。

三、更に原告主張の三の二票が町委員会及び被告ともひとしく無効投票と認定した三四票中に存することは当事者間に争いがなく、右二票のうち「」なる一票(検図第三)はさきに二の(八)で説示したと同様の理由により原告の氏名を記載した投票と解すべく、「」なる一票(同第四)は他に姓に島のつく候補者はいないので原告の姓「豊岡」を書こうとしてその「岡」を「島」と誤記(かかる誤記のありうることは成立に争いのない甲第五号証の記載によつても推測し得る)したにすぎないものと認めるのが相当である。

証人澄江武、重信隆慶、西俣芳二、久保新良、麓豊寿の各証言及び原告本人尋問の結果中叙上認定に牴触する部分はいずれも信用しない。

以上説示したところにより、被告が無効と認定した三九票中原告主張の二の(1)の一五票のうちの一二票、同(8)の一票、町委員会及び被告とも無効と認定した原告主張の三の二票以上合計一五票はいずれも原告に対する有効投票と認定すべく、その余は無効投票といわなければならないので、被告のこれら諸票に対する効力の認定には一部の誤が存したことにはなるが、右一五票を前記二三七五票に加算しても原告の有効得票数は合計二三九〇票となるにすぎず、広司常泰候補の有効得票数合計二三九五票に及ばないことは明かであるから、原告の当選の効力に対する異議の申立を棄却した町委員会の決定を取り消し、原告の当選を無効とした被告の裁決は結局正当であつたこととなる。

よつて被告の裁決の取消等を求める原告の本訴請求は理由なきに帰するので失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原国朝 淵上寿 後藤寛治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例